放課後の片想い

足立くんに連れられるまま、北館を上がっていく。



あれ?
まだ上がるの?




ピアノの音が聴こえてくる。


この音は



私の大好きな音。

あっ、今日は木曜日。


もう音楽室には行かないようにしていた木曜日。

鈴原くん、変わらず来てくれていたんだ。


なんだか、胸がザワザワする。





「足立くん?まさか…」



足を止めた私の手を引いて、音楽室へ向かう足立くん。

そして勢いを止めず、音楽室のドアを開けた。





〜♪

大好きな音色はピタッと止まった。


「えっ!?彗…と日和!?」


「練習中止めてごめんね〜♪」


ズカズカと入っていく足立くんの後ろから、隠れるようについていく私。


なんとも情けない。





「ねぇ、日和」

「なんですか?」



ぎゅっ!!

あれ、なんだろう。

胸がぎゅってなった。



足立くんの表情が、泣きそうな顔に見えたから?


どうして、そう見えるの??



「あの、足立くんどうした…「別れてほしい」



ドクンッ



えっと…


「え…なんて…」


「別れよ、俺たち」



何言って…


「彗!?何言ってんねん!?」


鈴原くんが私の代弁をしてくれているかのようだ。




「聞こえたでしょ?別れて」


この1分ぐらいで、別れてを3回も言われてる。





「意味わからんから!」

「わかるでしょ?別れてって言ってるだけなんだから」

「それが意味わからんって言ってるねん!!」

「悠じゃなくて、日和に言ってるんだけど」


心が…


すごく痛い



「日和!彗の話なんか鵜呑みにすんな!コイツは絶対…」

「もう疲れてさ」



何も言葉が出ない。




「お前…ええ加減にせんとほんまにしばくぞ?」

「なんで?俺何も悪い事してないじゃん」


今までの優しい足立くんの表情じゃない。



冷たく、熱を持っていない感じ。



何が起こっているのか、わかろうと思えば今すぐわかるのにわかろうとしない私の頭。



そんな私の頭でも、これだけはわかる。




「…ごめ…なさ…い」


ちゃんと謝らなきゃ。



私のかすれるような声

足立くんに届くかわからない。



「わた…しがちゃ…ときもち…言わなか…から」

途切れ途切れになってしまう。


涙が溢れて流れて止まらないから。



絶対泣いているのはバレてるのに、それでもなんとか隠そうとしてしまう。
顔を上げる事が出来ない。



ねぇ、あなたは今どんな表情をしていますか?



「わた…しはあだ…」

今更言っても遅いだろうけど、私は



「って事で、これからは友達としてよろしくなー♪じゃーねー」



音楽室の扉が閉まる音が聞こえた。

足立くんが出ていったんだろう。


私は顔を上げれてないまま、その場に立ち尽くす。





「日和…」


鈴原くんの手が私の肩に触れた。



パシッ

私はその手を振り払ってしまった。



「ご…ごめんね。帰ります」



「待てって、日和!」



鈴原くんに引き止められる。



「俺がいるから…!もう絶対悲しませないから!」


鈴原くんの事は好き。
きっとこれからも。


だけど



「私は…足立くんが大好きなの」


好きの意味が違う事にやっと気づけたの。



「“恋”として…大好きなのは足立くんだって気づいたの」


本当は先に足立くんに伝えたかった。


だけど、フラれてしまった。

覚悟はしてたけど、だけどやっぱりキツイ。



でも、私はきっとこの辛さ以上に足立くんを傷つけた。


だから、フラれて当然。



もう、辛くても甘えない。



「鈴原くんの気持ちはすごく嬉しかったし、有難いし…。だけどごめんなさい」


ちゃんと言えた。


「鈴原くんは大好きなの。これはきっとこれからも変わらない。でも、友達として大好きなの」


大切な友達として大好き。
夢を応援したい。


離れたくもない。



だけど、あの日以来ずっと心や頭にいたのは足立くんだった。



私にとって“愛しい人”は足立くんだってやっと自分で気づけたの。



遅くなってごめんなさい。




「それでも振り向かせる」


鈴原くんの顔が近づいてきた。



「やっ…!」


私は鈴原くんをドンッと押しのけた。




「ごめん…ね」


立ち尽くす鈴原くんを残して、私は音楽室を出た。




走って教室に戻ったけど、足立くんの姿はなかった。


靴箱にもいない。



電話をするけど出ない。




フラれてるけど、この気持ちだけは伝えたい。



お願い、もう一度だけ少しだけでいいから時間をください。



「足立くん…」


スマホを握りしめて、その場にしゃがみ込む。




涙が止まらない。
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