放課後の片想い
それぞれの想い
ピンポーン
「なに?」
「開けて」
「今、俺はいません」
「おもんないねん。寒いから開けろ。今すぐに」
日和に別れを告げてから数日。
明日は終業式。
そんな前日の夜、悠がいきなりやってきた。
「さみー。はよ開けろよな」
「こんな時間にいきなりなんだよ」
悠が俺ん家に来るのいつぶりだろ。
「おばさんたちは今日も出張?」
「あぁ」
「一緒やな」
「悠んとこも?」
「そっ」
共通点が多い俺たち。
あの日以来ほとんど話してなかったのに、今こうして普通に話せてる。
「なんかあったかいもん飲ませて」
「厚かましいよ」
「は?寒いねん」
相変わらずな悠。
俺は笑ってしまった。
ホットコーヒーを出して、お互い向かい合って座る。
わざわざ俺ん家まで来るなんて
「あのさ」
「日和とより戻せた?」
先に言われる前に聞いてしまおう。
大丈夫。
受け止める覚悟は出来てるから。
日和からも話したいって連絡がきてたけど、ずっと無視してる。
日和の口からはさすがにまだ聞けないかな。
「は…?」
「わざわざ言いに来なくてもよかったのに〜♪」
ダセーな、俺。
なに、余裕ぶってんだか。
相変わらずだな、俺って。
「何言ってんの、お前」
「悠の気持ちが通じたって事でしょ?よかったじゃん」
はぁーっとため息をついた悠。
「あのさ、ほんまにそんな事思ってんの?」
「なにが?」
「お前、ほんまに日和と別れたいん?」
なんでそんな事聞くんだよ。
「…そうだよ」
「そんな嘘言うなよ」
なんだよ
「嘘とかないって」
「彗」
「しつこいなぁ〜もう〜〜」
「いい加減にせぇって」
ガタッ!
俺は席を立った。
「悠を好きな日和にもう愛想尽きたんだって。ちゃんと理由になってるだろ?」
俺は悠と目が合わせれず席を立ち、キッチンへ向かった。
「日和の話を聞いてやって」
「今更何を話すの」
「それはお前が決める事じゃない」
なんなんだよ
やっと勇気を出したのに
「頼むよ、彗」
ズルいな
「悠も日和も…ズルいよ」
「俺からしたら、お前らの方がズルいけど」
「なんだよそれ」
俺らは笑い合ってた。
「なんやねんな…こんな確率あるか?」
「何が?」
「同じ子を好きになるなんてなぁ…」
だよな
「俺も思った事何回かある」
「俺ら、似過ぎてるんかもな」
そう言って笑う悠の笑顔が無理してるように見えた。
「悠、ごめんな」
「なんやねん」
「日和を好きになって」
悠があんなけ日和を好きって話してたのに
絶対好きになっちゃいけなかったのに
「謝る事ちゃうって言ったやろ?そんなんやったら俺が好きになったんもごめんやわ」
悠はこういう奴だよな。
「お前、ほんとに留学したら帰ってこない気なのか?」
「あー…そうやな」
「ふーん。まぁいいけど」
「えっ…」
「俺が会いに行けばいいだけだよな」
「ぶはっ!!」
急に笑いだした悠。
「やっぱお前最高」
悠の言っている意味がわからない。
「変な意地張ってた俺がダセーわ」
「俺だってダサいよ」
日和とのあんな場面見たって嫌いになんかなれないんだ。
大切な親友なんだ。
「絶対会いにこいよ」
ほら、こういう事を言う。
「悠ってさ、人たらしじゃない?」
「は?言われた事ないわ」
「連絡もたくさんしよーっと」
「3日に1回ぐらいで返すわ」
「毎日するよん」
「いらねー」
欲張っちゃいけない。
だけど、欲張りになるんだ。
日和も悠も大好きで大切だから
ふたりの笑顔が見れるなら
ふたりの幸せを願えるなら
喜んで身を引くよ。
その覚悟がやっと出来たから。
「遅くなってごめんな」
主語がないせいか、俺の言ってる意味がわからない様子の悠。
「なんか食う?」
俺はキッチンの棚を開けて、つまめる物がないか探す。
「俺がやで」
悠がそう言って笑った顔が、男の俺でもカッコいいと思えるぐらいで不覚にも一瞬見惚れてしまった。
「何言って…」
「はよなんか出してー。腹減った」
終業式が終わればクリスマスがやってくる。
日和の口から悠の事聞く覚悟を決めなきゃな。