放課後の片想い

なんとか全教科を終えた。


精一杯出来ることはしたと思う。



あっ、足立くんに連絡しよう。

足立くんにメッセージを打ちながら大学を出ようとしたら、門あたりがなんだか騒がしい。



「あの人もここ受けたのかなぁー」

「かっこいいね!声かけちゃう?」


女子たちの声がたくさん聞こえる。



まさか……


「足立くん!」


やっぱり。
声の的は足立くんだった。



「日和!お疲れ様」


足立くんの笑顔を見ると、疲れが一気に吹き飛ぶ。



「なんだー彼女いるじゃん」

女子たちがみんな帰っていく。


少しホッとした。




「足立くん、寒いのにずっと待っててくれたんですか?」

「んー。さっき来たところだよ」



絶対嘘だ。


「風邪引かないでくださいね?」

「じゃ、日和があっためて♪」

「はぁ!?」



春からは別々の学校になり、別々の道を進んでいく。



「足立くん、モテるから心配です…」

「モテないよ。てか、日和以外興味ないし」


不安がないって言ったら嘘になる。



でも、こうしてたくさんの愛情を伝えてくれるから


私は幸せでいっぱいになれる。




「日和ー!!」

「あっ!桜ちゃん!!加藤くんも!!」


加藤くんも今日入試だったから、桜ちゃんは付き添いで行っていた。


「わざわざこっちまで来てくれたの?」

「貴広の試験が思ったより早く終わってん」



そして、大好きな友達との時間。


きっとこれから色んな変化が起こる。





しばらくして試験の結果が出た。


私も加藤くんも無事合格。




「合格おめでとう」

「うん、ありがとうございます」


まずは足立くんに電話で報告。



「もうすぐ卒業だな」

「うん…」


なんだか寂しい。




ピンポーン…



「あっ誰か来たみたい」

「またかけてきて」

「はい、またあとでね」


電話を切ってインターホンの画面を確認する。




ドクンッーー…


私は急いでドアを開けた。



「鈴原くん…!」


「ごめんな、いつもいきなり」


「ううん…どうしたの?」



なんだか緊張する。



「日和には直接話したかったから」


「よっよかったらウチ入って?寒いし」


「いや、いい。彗に悪いし」


「そ…だよね」


少し続く沈黙。




「受かったよ」

「え…」

「向こうの学校、無事受かった」

「ほ、本当!?」


嬉しくて涙が出てくる。


「なんで日和が泣くん」

鈴原くんは少し呆れたように笑う。


「だって…嬉し過ぎて……鈴原くんすごく頑張ってたから……」


本当によかった。



「バカ…日和」


私の頭をポンポンと撫でてくれる。

温かな手。



「鈴原くん、おめでとう!!夢に一歩近づいたね!」



「ありがとう」


自分の合格より、遥かに嬉しい。



「日和は結果出たん?」

「ちょうどさっき出たんだよ。無事合格しました」

「おぉー!やったなぁ!!おめでとう!!」

「ありがとう!」


こうして鈴原くんとも普通に話せるようになった。




「じゃ、俺行くわ」


「うん」


帰っちゃう。



「あの!」

鈴原くんが立ち止まってこっちに振り返る。



「なに?」


「いつ…出発するの?」



もうすぐ会えなくなるんだ…。


「そうやなぁ…学校は9月からやけど準備とか色々あるから6月か7月には行くかな」


「そっか…」


あと3ヶ月ぐらいしかこっちにいないんだ。




「日和」


鈴原くんが私に近づく。



「そんな顔しんといて。俺、また期待しそうになるから」


「えっ!!」


私は顔をブンブンと横に振る。


「はは!嘘やって♪」


鈴原くん…



「明後日卒業式やなぁ」


「うん」


「放課後、音楽室に来てよ」


「え…」

「最後の時間、一緒に過ごしてくれへん?」



これは…断らなきゃいけないんだろうな。


だけど


断りたくない。



「彗くんに…聞いてから返事してもいい?」


あえて、足立くんではなく“彗くん”と言った。

足立くんの気持ちを尊重したいから。



「もちろん」


そう言って鈴原くんは帰っていった。




———————————————


そしてあっという間に卒業式の日。


すでに大号泣の桜ちゃん。



「みんな大学バラバラやなぁ〜ほんまに寂しい」

「ほんとに」


すごく寂しい。


今までの時間が私には眩し過ぎて、これからやっていけるのか自分自身心配で仕方ない。




安田先生からの言葉にもうるっときたり、感動がいっぱいの卒業式だった。



最後の終礼が終わり、クラスメイトみんなもそれぞれ帰っていく。



誰もいなくなった教室。


この静かな教室が私は好きだ。




「日和」


足立くんがやってきた。



「行っておいで?」

「ほんとにいいんですか?」


「うん」


チュッ


私の頬にキスをくれた。



「待ってるから」

「うん。ありがとうございます」




私はあの場所へ向かった。




階段を上がっていくと、聴こえてくる大好きな音色。



ドキドキがうるさくなる。



「はぁはぁ…」

走ったせいで息切れがすごい。



〜♪

この美しい音楽を止めたくなくて、ドアを開けず外で聴く。



そして鞄の中を探る。



「あった」


鈴原くんのピアノをたくさんメモしてきたノート。

私の宝物。



「この曲は初めてだなぁ。えっと…低い音が多くて……」

ひとり言をブツブツ言いながらメモをする。




ガラッ


「相変わらず何してんの?」


「鈴原くん!」


私は急いでノートを隠す。


「何隠したの?」

「何もないよ!」


これは秘密のノート




「日和、外で聴くの好きやね」

「演奏止めちゃうの勿体無いなって思って…」



懐かしい空気。


あなたとここで過ごした時間。



今の私がいるのは、間違いなくあなたのおかげです。
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