【完】生贄少女は冷酷暴君に甘く激しく求愛されて
琥珀くんは仕事が忙しいらしく、夕食の時はひとりのことが多かった。
それが寂しいなんて、あまりに贅沢なことだから口にはできなかったけど。
私の誕生日だからって、仕事を早く切り上げてきてくれるその優しさが胸にしみる。
実家にいた時は、お父さんもお母さんも私の誕生日なんて無関心で、お祝いされた記憶なんてない。
だから誕生日なんて、自分の中ではなんの特別さもないただの日常のひとつでしかなかった。
それなのに、誕生日をお祝いしてもらえることがこんなに幸せなことだったなんて。
「ありがとう、ございます……っ」
嬉しいのに、なんだか泣きそうで。
お礼を伝えたいのに、涙をこらえるというへんてこな表情になってしまった。
そんな私を琥珀くんは優しく見つめながら頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「おまえはいろんな顔を見せてくれるようになったな」
「……っ」
……変だな。
感情なんてコントロールできるはずのものだったのに。
全部琥珀くんのせいだ。
琥珀くんと出会ってから、私はすっかり喜怒哀楽が豊かになってしまったよ。