【完】生贄少女は冷酷暴君に甘く激しく求愛されて


ボストンバッグを持って、私はマンションを出ようとする……けれど、寝室の前で立ち止まる。


ここで琥珀くんと何度も熱を重ね合った。

何度も優しく抱きしめてもらった。


寝室には琥珀くんの匂いが染みついている。

甘くて、男らしさのある、琥珀くんの匂いが大好きだった。


……そう、大好きだった。


「ふ、う……っ」


ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

嗚咽が漏れ、私は思わず口を押さえた。


もう一度でいい。

もう一度、琥珀くんの腕に抱かれたなら、その思い出だけで生きていけたのに。


でもそれと同時に、もう一度琥珀くんと顔を合わせれば、離れがたくなることもわかっていた。


だから琥珀くんが帰ってくる前に、ここを出なきゃ。

< 215 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop