【完】生贄少女は冷酷暴君に甘く激しく求愛されて
ボストンバッグを持って、私はマンションを出ようとする……けれど、寝室の前で立ち止まる。
ここで琥珀くんと何度も熱を重ね合った。
何度も優しく抱きしめてもらった。
寝室には琥珀くんの匂いが染みついている。
甘くて、男らしさのある、琥珀くんの匂いが大好きだった。
……そう、大好きだった。
「ふ、う……っ」
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
嗚咽が漏れ、私は思わず口を押さえた。
もう一度でいい。
もう一度、琥珀くんの腕に抱かれたなら、その思い出だけで生きていけたのに。
でもそれと同時に、もう一度琥珀くんと顔を合わせれば、離れがたくなることもわかっていた。
だから琥珀くんが帰ってくる前に、ここを出なきゃ。