【完】生贄少女は冷酷暴君に甘く激しく求愛されて
Ⅸ.
――――琥珀side
ほしいものなんてなかったはずだった。
この世のすべてが無意味で、無色で、どうでもよくて。
それなのにおまえは俺のすべてをひっくり返したんだ。
小さい頃、父子家庭で育った俺は、父親から虐待を受けていた。
シャツから覗く腕はいつだって痣だらけで、父からの虐待はだれから見たって一目瞭然だった。
でも先生も近所の大人も見て見ぬふりをした。
それは父が地元で有数の権力者だったから。
逆らったら自分たちの地位や家族がどうなるかわからない。
だからみんな、そんな父に逆らうことを恐れたのだ。
だれも俺のために自分の生活を投げ打とうとはしなかった。
そんなふうに育った俺だから、まわりに期待することなんて馬鹿らしいと思ってた。
期待するだけ無駄。
結局は裏切られるだけなのだから。
毎日はあまりに無色で、なにをしていてもどこにいても、生きた心地がしていなかった。