【完】生贄少女は冷酷暴君に甘く激しく求愛されて


ユズリハは、私の姿を認めるなり、かけていた淡い色つきのサングラスを外した。


――と、目に飛び込んできた彼の素顔に、私は瞠目したまま固まった。

固まった、のではなく、固められたと言うべきなのかもしれない。


そこにいたのは、背筋が凍りそうなほど美しい(ひと)だったのだから。


陶器のように白くきめ細やかな肌、だれもが羨むようなすっと通った鼻筋、桜色に赤を一滴落とした綺麗な唇。

あまりに繊細に整ったひとつひとつのパーツが左右対称に寸分の狂いもなく配置されている。

色っぽさと艶やかさが同居した唯一無二のオーラが、さらに美しさを際立たせている。


これまで容姿なんて大きな意味を成さないものだと思っていたけれど、その容姿は浮世離れしていて、同じ人間だとカテゴライズするのは愚かなことのようにさえ思えてくる。


そしてなにより私の目を引いたのは、瞳だ。

底のない深淵のように深く昏く、どこまでも吸い込まれていきそうになる。


――初めて、初対面の人に畏怖の念を抱いた。

彼が纏うオーラに清らかとは反対の位置にある静かな仄暗いなにかを感じずにはいられないから。

底知れないそのなにかがなんなのか、わからない。

けれどこの人を前に、ぞくりとした冷たいものが背筋を走ったことは間違いなかった。


東郷さんの言ってたことがよくわかる。

この人は絶対的な王者で支配者だ。

人の上に立つために生まれてきた人。

この人の一言で、きっと何万という人がひれ伏すんだろう。


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