【完】生贄少女は冷酷暴君に甘く激しく求愛されて
「ねぇね、聞いてよ! 昨日の撮影、吉沢りゅうと一緒だったの……!」
環が興奮気味に、ぶんぶんと両の拳を胸の前で振って報告してくる。
そんな環はとびきり可愛い……のだけど。
「吉沢、りゅう?」
私は聞き馴染みのない名前に、首を傾げた。
すると、大きな瞳をこぼれんばかりに大きくさせて驚く環。
「もしかして、知らないの!?」
「うん……ごめんね」
せっかく環が私に報告してくれたのに、その感動を共有できなかったことが申し訳なくなる。
撮影が一緒だったということは多分、有名な俳優さんかモデルさんなんだと思う。
でも私の家のテレビは数年前に壊れたまま、部屋の隅で眠ってる。
それにこのご時世にもかかわらず、私は生まれてこのかたスマホというものを持ったことがない。
だから同世代の女子たちなら持っているはずの情報を、私は持っていなかったりするんだ。