【完】生贄少女は冷酷暴君に甘く激しく求愛されて
「そんなわけないから」
「えーっ? ちなみにお兄さんっていくつ? どうせ彼女はいないんでしょ?」
「それは……」
咄嗟に答えられず、私は口をつぐんだ。
言われて初めて、私は琥珀くんのことをなにも知らなかったことに気づいた。
年も知らないし、生年月日も血液型も、好きな食べ物さえ知らない。
彼女は……いるのかな?
私の他に愛人がいる可能性だってある。
いくら怖い人だとは言えあんな美貌なのだから素顔を知っている人にはモテるだろうし、いかにも女の人の扱いに慣れてそうって感じだったし。
でもそうだとしたら、愛人は何人くらいいるんだろう。
私、本当になにも知らないんだな……。
そんな個人的なことに、ただの愛人が立ち入るべきではないのかもしれない。
私の使命はあくまで、道具として感情を殺して身体を差し出すこと。
でも昨日、安心させるかのように私の頭をぽんぽんと撫でてくれたあの手の優しさだけは、妙に人間味があって忘れることができなかった。