トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~
「――ところで貢、あんたゴハンは? 今日は寒いからクリームシチューにしたんだけど」

「うん、腹減ってるからすぐ食うよ。その前に部屋で着替えてくる」

「分かった。もうあんたの分だけだから温め直すわね。お兄ちゃんも早く帰ってきてたから、先に食べちゃったし」

「サンキュ、母さん。そっか、兄貴今日は早番だったんだ」

 僕は絢乃さんからのチョコのフタを閉め、それとカバンを手にして二階の自室へ上がって行った。
 

   * * * *


 ――僕の実家は銀行の社宅ではなく、父の持ち家である戸建てだ。絢乃さんのお宅ほど立派ではないが、ちゃんとした二階建て。暮らしぶりでいえば、中の上くらいだろうか。
 社会人になってからひとり暮らしをしていたものの、毎週末には帰っていたので僕の部屋もちゃんと残っていた。兄とは別々の一人部屋である。

 夕飯を済ませてからもう一度部屋に戻った僕は、デスクの椅子に腰かけて絢乃さん手作りのチョコをじっくり味わっていた。

「美味い…………。これが手作りなんて信じられないな」

 いくつかの層で形成されたチョコはただ甘いだけではなく、ビターチョコのほろ苦さもパンチとして残っていて、なかなか複雑な味だった。
 彼女が材料選びからラッピングに至るまで、どれだけの愛情を込めて下さったのかが一粒食べただけでありありと伝わってきた。

 でも、それと同時に無理矢理奪ってしまった彼女の唇の甘さまで甦ってきて、僕は自分が何という暴挙に出てしまったんだろうという後悔の念に苛まれた。……まあ、自業自得なのだが。

「…………そうだ。絢乃さんにチョコの感想を伝えないと」

 デスクの上で充電していたスマホを手に取ると、メッセージアプリを開いた。
 電話で伝えてもよかったのだが、あんなことがあった後なので出てもらえない可能性もあったのだ。
 実際、彼女からは何の連絡もなかった。チョコの感想を催促されなかったのは、彼女なりの優しさだったのかどうか。


〈手作りチョコ、ありがとうございました。すごく美味しかったです。〉


「…………なんかありきたりだな」

 そう思ったのがそもそもの間違いだったかもしれない。そのせいで、あの後あんな余計な一言まで送信してしまったのだから。


〈でも、僕には絢乃さんの唇の方が甘かったですけどね。〉


「……………………だぁーーーーっ! 何書いてんだ俺は!? こんなの俺のキャラじゃねぇー!!」

 ひとり悶絶してジタバタしていたら、隣の部屋から兄に「うるせぇぞ!」と怒鳴られた。
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