トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~
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――僕はその後部屋まで飛んできた兄にさんざんからかわれ、根掘り葉掘り訊かれ、グッタリ疲れた状態で朝を迎えた。
兄は絢乃さんに、僕が情緒不安定っぽかったと言ったそうだが(これはだいぶ後になって知った事実だったが)、誰のせいだよと抗議したくなる。……それはさておき。
やっと目が覚めて、一階のリビングダイニングへ下りて行ったのは十時近くになってからだった。僕は普段からけっこう早起きな方で、こんなに遅く起きることはめったになかったので、それはやっぱり兄のせいだと思う。もしくは、絢乃さんに対して愚かな行為に及んだ僕自身のせいか。
「――母さん、おはよ。……あれ、父さんは?」
平日ならともかく、土曜日の朝から父が不在なのは珍しかったので、僕は母に訊いた。
「朝早くから釣りに行ってるわよ。あんたがこんな朝寝坊なんて珍しいわね」
父の唯一の趣味が海釣りである。僕も兄も、高校生くらいの頃まではよく一緒に連れて行ってもらっていた。ただ、二人とも父に似ず、釣りのセンスはイマイチだ。
「うん……、夜遅くまで兄貴と色々あってさ。っていうか兄貴、今日も早番って言ってたような。あれでちゃんと起きて仕事行ったのか」
「店長だからでしょう。責任ある立場だから休んだり遅刻したりできないのよ。貢、あんたもそうでしょう?」
「うん、まぁそうかな」
会長秘書というのは管理職というわけではないが、会長と同じ権限を持っている分重責を伴うのだと小川先輩から聞いた。僕が抜けると絢乃会長の仕事が回らないというのは、そういうことである。彼女の手が回らない分を、僕と加奈子さんとでフォローしているからだ。
「――貢、コーヒー飲む?」
「ああ、自分でやるよ。――母さん、俺も今日出かけてきていいかな?」
「それはいいけど……、どこに行くの?」
自分でインスタントのコーヒーを淹れて戻った僕は、ふと思い立って母にそう言った。別に行きたい場所がこれといってあったわけでもなかったのだが、家に引きこもっていても何も始まらないんじゃないかと思ったからだ。
「都内のカフェ巡りと……、あとは映画観るとか……かな。昼ゴハンも外で済ませるから。場合によっては夕飯も」
「分かった。昨日からなんか元気なかったものね。好きなだけ気分転換してらっしゃい」
――というわけで、僕はこの日、クルマで都内を巡ることになったのだった。夕方に、嬉しい誤算が待っているとは夢にも思わずに。