トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~
「それはともかく、絢乃さんは今どちらに?」
電話の向こうは何だか騒がしくて、彼女はもしかしたら外にいらっしゃるんじゃないかと思った。
そういえば、僕は絢乃さんが休日にどんな過ごし方をしていらっしゃるのか知らなかった。彼女は料理やお菓子作りが好きだということは知っていたが、それ以外の趣味の話を伺ったことはなかった。彼女が僕のことをあまりご存じなかったように。
それに、学校がお休みなら里歩さんにどこかへ連れ出されている可能性もあった。あんなことが起きた翌日だったのだから、絢乃さんが親友である彼女と連絡を取っていらっしゃらないわけがないと思ったのだ。
『わたしは今、新宿にいるの。里歩と一緒にランチして、ボウリングして、別れた後貴方のお兄さまに声かけられてね。ついさっきまで一緒だったの』
里歩さんとボウリング……と納得しかけた僕は次の瞬間、絢乃さんの口から思いがけない名前が飛び出して卒倒しかけた。兄貴と!? ウソだろ!? っていうかなんで!?
電話に出る時、店のエントランスまで出ていたからよかった。もしコーヒーを飲みながら聞いていたら、コーヒーを噴き出して店の人にそれはそれは迷惑をかけていたかもしれない。
僕が「えっ、兄にですか!? それってナンパじゃ……」と言うと、「ナンパじゃないよ。仕事帰りに偶然見かけたから声をかけられただけ」という呑気なお答え。偶然ならナンパじゃないのか、と僕は首を傾げた。
『そんなことより、わたしが今日電話したのはね、貴方と話がしたくて。電話じゃなくて、直接会って話したいの。あと、昨日の既読スルーについても弁解させてほしい。だから……、今から会えないかな? 新宿まで来られる?』
前日あんなことをしでかしてしまった僕に「会いたい」と言ってもらえたことは意外だった。そして彼女も、メッセージを既読スルーしてしまったことを気にされているのだと知って正直驚いた。そのおかげで、僕の中の悪い予感がすべてふっ飛んだのは言うまでもない。
「そこは〝謝りたい〟じゃなくて〝弁解させてほしい〟なんですね」
僕もお人好しよく言われるが、彼女もたいがいお人好しだよなぁと僕は思った。この時笑ったのはそれが理由である。彼女に謝る必要なんてなかったのだ。むしろ謝るべきは僕の方だった。
彼女に「あと十分くらいで着けると思います」と言い、通話を終えると僕は店を出た。セルフ式の店だったし、コーヒーはすでに飲み終えていたから。
ふと電話で、絢乃さんの服装について訊くのを忘れたことを思い出したが、僕は彼女がどんな服装をしていても見分ける自信があったので必要なかった。
電話の向こうは何だか騒がしくて、彼女はもしかしたら外にいらっしゃるんじゃないかと思った。
そういえば、僕は絢乃さんが休日にどんな過ごし方をしていらっしゃるのか知らなかった。彼女は料理やお菓子作りが好きだということは知っていたが、それ以外の趣味の話を伺ったことはなかった。彼女が僕のことをあまりご存じなかったように。
それに、学校がお休みなら里歩さんにどこかへ連れ出されている可能性もあった。あんなことが起きた翌日だったのだから、絢乃さんが親友である彼女と連絡を取っていらっしゃらないわけがないと思ったのだ。
『わたしは今、新宿にいるの。里歩と一緒にランチして、ボウリングして、別れた後貴方のお兄さまに声かけられてね。ついさっきまで一緒だったの』
里歩さんとボウリング……と納得しかけた僕は次の瞬間、絢乃さんの口から思いがけない名前が飛び出して卒倒しかけた。兄貴と!? ウソだろ!? っていうかなんで!?
電話に出る時、店のエントランスまで出ていたからよかった。もしコーヒーを飲みながら聞いていたら、コーヒーを噴き出して店の人にそれはそれは迷惑をかけていたかもしれない。
僕が「えっ、兄にですか!? それってナンパじゃ……」と言うと、「ナンパじゃないよ。仕事帰りに偶然見かけたから声をかけられただけ」という呑気なお答え。偶然ならナンパじゃないのか、と僕は首を傾げた。
『そんなことより、わたしが今日電話したのはね、貴方と話がしたくて。電話じゃなくて、直接会って話したいの。あと、昨日の既読スルーについても弁解させてほしい。だから……、今から会えないかな? 新宿まで来られる?』
前日あんなことをしでかしてしまった僕に「会いたい」と言ってもらえたことは意外だった。そして彼女も、メッセージを既読スルーしてしまったことを気にされているのだと知って正直驚いた。そのおかげで、僕の中の悪い予感がすべてふっ飛んだのは言うまでもない。
「そこは〝謝りたい〟じゃなくて〝弁解させてほしい〟なんですね」
僕もお人好しよく言われるが、彼女もたいがいお人好しだよなぁと僕は思った。この時笑ったのはそれが理由である。彼女に謝る必要なんてなかったのだ。むしろ謝るべきは僕の方だった。
彼女に「あと十分くらいで着けると思います」と言い、通話を終えると僕は店を出た。セルフ式の店だったし、コーヒーはすでに飲み終えていたから。
ふと電話で、絢乃さんの服装について訊くのを忘れたことを思い出したが、僕は彼女がどんな服装をしていても見分ける自信があったので必要なかった。