トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~
「――ところで先輩、課長の説得ってどうなりました?」

『ふっふっふ、あたしを誰だと思ってるの? 「今後の出世に響きますよー」って言ったら、あの人真っ青になってた。チョロいもんだわ♪』

「…………先輩、それって〝脅迫〟とか言いません?」

 嬉々として語った彼女に、僕は頭が痛くなった。うまく説得してくれたのは非常にありがたいのだが、少々やり過ぎな気もする。
 会長秘書はいわば会長の執務を代行する立場にいて、その発言力や影響力も会長のそれとほぼ等しいのだ。ヘタをすれば、パワハラに該当しかねない。……まぁ、相手も部下たちにハラスメント行為を働いていたのでこれでおあいこになるだろうが。
 僕がそのことを指摘すると、先輩は案の定「これでおあいこでしょ?」と不敵に言ってのけた。

『とにかく、あなたは会社に戻ってきても課長さんからネチネチ言われる心配なくなったから。安心して戻ってらっしゃい。さっき頼まれた件は任せといて』

「はい、何から何までありがとうございます、先輩。――じゃ、もうすぐ社に着きますんで」

 安心して会社に戻れることが分かり、ホッとした僕は通話を切った。

「――今日の夕飯、久々に兄貴の店で食べようかな。今日は遅番だって言ってたし」

 兄は(しん)宿(じゅく)にある洋食系レストランチェーンで店長として働いている(ちなみに現在進行形である)。毎週末は実家に泊まり、食事も家族と一緒に摂っている僕だが、実家暮らしの兄は時々僕のアパートまで食事を作りに来てくれていた(そしてしばしば僕にも手伝わせていた)。何だかんだ言って弟に世話を焼きたい兄は、ひとり暮らしの僕の栄養管理に気を遣ってくれていたりするのだ。

「せっかく臨時収入も入ったしな……」

 絢乃さんから頂いた五千円を、使わないという選択肢もあったが、使わなければ彼女に申し訳ないなと思った。……僕はその時点では、絢乃さんの涙を見た唯一の男だったわけだし。口止め料も含まれていたのなら、使ってしまわなければ「誰にも話しませんよ」という証明にならないかも、という思いもあったのだ。


〈兄貴、今晩兄貴の店に行ってもいいか? たまには夕飯にいいもの食いたい〉


 ――会社に戻ると、自分のデスクで兄にメッセージを送信した。時間的に、兄はまだ職場には着いていないはずだと思った。
 するとすぐに既読がついて、返信がきた。


〈オレは何時でも大歓迎♪ 
 予約席用意して待ってっけど、一応来る前に連絡よろしく〉


「……〝予約席〟って何だよ」

 僕はスマホの画面にツッコミを入れた。チェーン店のレストランに席をリザーブするシステムなんてあっただろうか。
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