蒼に、跪く。
私が彼と出会ったのは、高校3年生の夏だった。
夏休みの課題として、美術館に赴き一つの作品をテーマに感想を綴ったレポートを出すという課題があった。
正直美術のセンスも感性もない私は、早めに課題を片付けてしまおうと高校に一番近い美術館で課題を済ませようとしたのだ。
どうせ1人1人の課題なんて先生がきちんと見るはずもない。少しくらい手を抜いたってバレないだろう。うまく誤魔化して、適当に完成させよう。
それにこちらとしては、受験もある手前芸術系の課題には時間を割いてられないのだ。あろうことか、進路も決まっていない私にとっては無駄な時間だと思っていた。
感想が書きやすそうな絵を選ぼう、と思っていたのだけれど、不意に目を奪われた作品があった。
タイトルは【蒼】。それはよく晴れた快晴のような、どこまでも透き通るような海の波だとか、そんな純粋なものではなかった。
どこまでも深く吸い込まれそうで、閉じ込められそうな薄暗い蒼色の作品。
「…MAYA、HOSHINO?」
展示されている作品は触れるのは勿論禁止だった。だけれど意に反して、思わず手を伸ばしてしまいそうになるほど、呑み込まれた。
「…綺麗」
思わず言葉がこぼれて、その作品だけに目が釘付けになっていた。
「…その作品、お気に召しましたか?」
美術館内は閑散としており、人は疎であったため、近くに誰かがいるとは思わなかった。後ろから低い男性の声が聞こえて、思わず肩を揺らす。