蒼に、跪く。
その人のアトリエは、美術館の地下にあった。夏なのに、空調が効いていないせいか妙にひんやりとした空気が軽装によって晒した肌を伝う。
無意識に両腕を擦っていると、不意に肩に洋服をかけられた。
「ここは少し寒いんです。嫌でなければ、それを着ていてください」
「…有り難く、お借りします」
流石にキャミワンピ一枚では、秋口に似たような温度の空間では寒い。今の今まで彼が着ていたせいか、温かさに肌を委ねて。
アウターを脱いだせいか細い身体のシルエットが浮かび上がる。男の人の割には華奢で、簡単に折れてしまいそうだと思いながら。ぼんやりと作品を整理する後ろ姿を、眺めていた。
「…見たところ、貴女はそこまで美術に興味がなさそうですが。今日はどうしてこちらに?」
「学校の課題、で、…仕方なく」
「そうでしたか」
「何かすみません」
「別に構いませんよ。---でも、僕の作品に足を止めてくれた。それは、嬉しかったな」
通りすぎるつもりだった。こんなに長居するつもりも毛頭なかった。だけれど世界観に惹かれただけではない、もう一つの理由が明確にあって。