蒼に、跪く。
「名前、」
「…?」
「作品のタイトルと、私の名前が一緒だったんです」
藤崎 蒼。タイトルと全く同じ漢字があてがわれたことに、運命にも似た何かを感じた。
「そうでしたか。蒼さん、綺麗な貴女にピッタリの名前ですね」
冗談なのか、本気なのかわからない感想に思わず目を細める。
「蒼さん。…この後、時間を少し頂けますか」
「…?」
「貴女をモデルに、絵を描いてみたくなったんです」
唇をほんの少し歪ませて、単調な音色で懇願される。笑っているのか、形容のできない表情。底知れない雰囲気。だけれどあんなに綺麗な絵を描く人が、どんな風に絵を描くのか見てみたかった。
「…私で、良ければ?」
「ありがとうございます」
「えーっと、私はどうすれば良いですか?」
「何もしなくて良いです。…楽に過ごしてください。僕が好きなように描きますから」
言うが早いか、スケッチブックを手に持って鉛筆を滑らせる。絵を描くために、もともとしていた手袋を取った手は血の気が通っていないかと疑うほど青白かった。
視線が強く、向けられる。目を逸らしたいけれど、強く射抜かれて、まるで標本になった気分だ。
どれぐらいそうしていただろうか。---滑りつづけていた手元の動作が音を止めた。
「…できた」
一息着くように、満足気に見える表情でスケッチブックを見つめる彼。