蒼に、跪く。
「私も、見ても良いですか?」
「良いですけど…僕は人物画は殆ど描いたことがないので期待しないで下さいね」
この人に、私はどんな風に映っていたのだろう。作品を見る限り、恐らくプロの人だ。そんな人に描いてもらう、なんてきっと貴重な体験だ。
期待を膨らませるように、彼に近づく。
だけれど、そのスケッチブックを見た瞬間に、言葉を失った。
「…っきゃ、」
感想でもなんでもない、音となり得るギリギリの域で溢れた悲鳴。思わず口を手で覆って、近づいていた距離から後ずさる。
「そんなに怯えないでくださいよ。…意外と良く、描けてるでしょう?」
そこに描かれているのは、紛うことなき私自身。だけれどその中にいる私は、何も身に纏っていない、生まれたままの姿だった。
「想像してみたんですけど、---描いたら余計に本物を見たくなりますね?」
---この人、おかしい。
だけど何よりも怖かったのは、あまりにもリアルすぎる描写と特徴。だって、この人は知り得るはずがないのだ。
私の身体にある、黒子の位置など。
知るはずも、見たこともないのに、私が知っている限りの場所に正確に描かれていたことにじわじわと恐怖を覚える。
「私、帰ります…っ」
この人とは、関わってはいけない。近づいてはいけない。後ろも振り向かずに、一目散に階段を駆け上がり、美術館を抜け出す。
…幸いなことに、彼は私を追っては来なかった。