毒で苦い恋に、甘いフリをした。
私の肩をコツンってしてから、持っていた袋を差し出された。

「ん」

「何これ………携帯用スリッパ?」

コンビニの袋に入っていたのは、旅行とかで使えそうな携帯用のスリッパだった。

「すぐそこにコンビニしか無くて、これしか無かったんだよ。下駄、履けないんかなって思って」

「わざわざ買ってきてくれたの?」

「俺はおんぶでもいいけどー?ゆめちゃんは嫌でしょ?」

「なに、ゆめちゃんって」

「子ども扱いー。外履きじゃないけどさ、無いよりはマシだろ」

「ん。すっごくありがとう。ゆうれい」

「んー?」

「ゆうれいだけだよ。こんなんしてくれるの」

一瞬だけ固まったゆうれいがあからさまな溜め息をついて、両手で私の耳をふさいだ。

ゆうれいの、もう憶えちゃったくちびるの感触。

かすかに聞こえた、「風のこともう思い出さないで?」って声。

私達は一度も空を見上げなかった。

ゆうれいと花火を見なかったせいで、
かっちゃんと見た花火だけが脳内に鮮明に焼きついた。

ゆうれいにキスをされている間も花火の色がチラついて、

自分から求めるみたいにゆうれいの甚平を背中からギュッと掴んでしまった。

「ゆめ…こんなとこで煽んないで。止まれなくなる」
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