毒で苦い恋に、甘いフリをした。
ゆうれいの横顔を眺める。

本当に整った顔。
なんか甘い匂いもするし。

「ゆうれいって香水つけてんの?」

「香水?きらーい」

「なんかつけてない?」

「なんで?」

「なんか甘い匂いがする」

ゆうれいの首元に鼻を近づけてみたら、
肌からっていうより、制服のシャツから香っている気がする。

「あー、柔軟剤…」

「キスしちゃいそうだけどいい?」

「はっ…」

二人掛けのシートに並んで座っていた。
バスの座席は広くないからずっと肩が触れ合いそうだった。

なのにちょっと近づいただけでそんなこと言うの、いじわるすぎる!

「あれ、したくて寄ったんじゃないの?」

「そんなわけないでしょ!」

「で、なんの匂いだった?」

「柔軟剤!」

「ね?俺の匂いじゃなかったでしょ」

何がうれしいのか、さっきよりもご機嫌になったゆうれいは、私の最寄りのバス停に着くまでずっとニコニコしていた。

バスを降りて、向かいのバス停に学校方面に戻るバスが走ってきているのを見たゆうれいが「タイミング最高!」って言いながら横断歩道を渡っていった。

「えっ…ほんとにもう帰んの!?」

「約束だろー!また明日なー!」

「ほんと意味わかんない…」

バスを待っていた人達が全員乗り込んで、バスはすぐに走り出した。

窓から手を振ってくるゆうれいに振り返したらくしゃくしゃの笑顔になったから、不覚にも心臓がキュってなった。
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