毒で苦い恋に、甘いフリをした。

天使の化けの皮

「話ってなに?」

「茅野さんって案外せっかちなんだね」

ふふ、って微笑むこころちゃんを正面から真っ直ぐに見れなくて、フェンス越しから運動場を見下ろした。

こころちゃんもフェンスを両手で掴んで、同じポーズを取る。

今から一緒に飛び降りようとでも提案してくるんじゃないだろうな、なんてまた考えてしまってドキドキする。

「世間話、しに来たわけじゃないでしょ?」

「もちろん」

こころちゃんの声はずっと明るい。
かっちゃんと喋っているとき、っていうよりも、
ゆうれいと喋っているときの口調に似ていた。

「かっちゃんのこと?それとも…」

「柳くんのことだよ?分かってんでしょ。いちいち探るような聞き方しないでよ」

「っ…。じゃあ早く話そうよ。っていうかゆうれいのことでこころちゃんと話すことってあったっけ?」

「もうとぼけなくていいよ。それとも嫌味のつもり?」

「嫌味って?」

「柳くんと私の間に接点なんか無いくせに何を話したいんだよとか思ってる?」

「そんなこと…。こころちゃん、ちゃんと説明して欲しい…。あの日、教室でお友達と話してたことも」

「やっぱりちゃんと聞こえてたんじゃん」

「ずっと考えてた。こころちゃんが言ってる言葉を私が誤解してるんじゃないかとか…。でも誤解なんかじゃないんだよね?こころちゃんは…」

「柳くんのことが好きなの。あんたと違って、男性として。私がずーっと好きなのは柳くんだった。一年生のときからずっと」

吹奏楽部の部室から演奏が聴こえてくる。

去年から流行っている、女性シンガーソングライターが片想いを可愛く歌っている曲だった。

今の私とこころちゃんの間に、不釣り合いな曲が流れ続けた。
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