毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「こんなこと話すのダサいからほんとは嫌なんだけど」

「うん」

「私さぁ、受験の日、筆箱忘れちゃったんだよね」

「え…そんな漫画みたいな…」

「バカにしたでしょ?」

「えっ、いや全然?」

「いいよ別に。自分でも思うもん。絶望的だった。お守りみたいに受験票だけ握り締めて、なにやってんだろって。とにかく受験番号の通りに座ってさ、ちょっとだけ復習する時間あったじゃない?周りは必死で参考書とにらめっこしてんのに、私は一人でただ俯いてた」

「試験管の先生に話してみるとか…」

「そんなこと思いつきもしなかった。頭真っ白でなにも考えられなかった。同中の子は違う教室だったしもう教室も出れない時間だった。スマホも預けなきゃいけなかったでしょ」

「受験受けれないくらいだったら誰にでも声かけられるじゃん」

「あのさ、あの場にいた全員がライバルなんだよ?一人でも蹴落とせるならそうしたいじゃん」

「こころちゃんってそんなにプライド高かったんだね」

「茅野さんはいちいち嫌な言い方する子なんだね」

可愛いラブソングを何回か演奏した吹奏楽部は、
次は新しい場所への旅達と変わらない友情を歌った曲を演奏し始めた。

卒業式では卒業生が退場するときに吹奏楽部が演奏をして送り出す。

二学期が終わりに近づく頃にはこうやって練習が始まるみたいだった。

さっきから私達には不釣り合いな曲ばかりが流れ続けていることにこころちゃんは気づいているかな。
< 130 / 208 >

この作品をシェア

pagetop