毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「…で、ゆうれいは?」

「柳くんは私の隣の席だったの」

「へぇ…そうだったんだ」

「どうしたの?具合悪い?って声をかけられて顔を上げたら心配そうに覗き込む柳くんがいて…。もうすぐ試験管の先生が来ちゃう時間だった。もうなりふり構ってられなくなって、筆箱を忘れたんだって言ったの」

「それで?」

「早く言えばいいのにって柳くんが笑って。余ってたシャーペンに芯まで追加してくれて、消しゴムも二個持ってるからって貸してくれたの」

「そうだったんだ。よかったね、ゆうれいが隣で」

「真っ白だった頭が急にフル回転し始めて、絶対に合格しなきゃって思った。絶対にまた柳くんに会うんだって。柳くんがいなかったら人生が変わってた。だから入学して、クラス分けの名簿に柳くんの名前を見つけたとき、こんな運命は二度と起こらないって思ったんだよ!」

「私だってそうだよ…。中学でかっちゃんに出会ってずーっとおんなじクラスで、高校でも一緒になれて。そのたびに神様ありがとうなんて思っちゃったりして。かっちゃんの近くにいられるならもうなんにも望まないからお願いしますってそればっかりを願ってた」

「だったらずっとそうやって風くんにだけすがってればよかったのにっ…!」

「それを壊したのはこころちゃんでしょ?ううん…こころちゃんが悪かったんじゃない…って思うよ?好きになったのはかっちゃんで、勝手に失恋したのは私で…。弱くてゆうれいを傷つけたのも私だから」

「違うっ…!そんなことよりずっとずっと…もう最初からずっとだよ!」

「最初から?」

「入学式の日。あの時はありがとうってお礼が言いたかった。柳くんのおかげでここにいられるんだよって。でも風くんと親しくなってて中々声がかけられなくて。本当はちょっと期待してた。あの時の子だよねって気づいてくれるかなって。でもそれどころかいきなり現れたあんたが…」

「私はかっちゃんと親しかっただけで…。親友だから。親友の親友と仲良くなるのは自然でしょ?」

「急に変な呼び方して距離を詰めるあんたも、柳くんにキラキラした瞳を向けられてるくせにヘラヘラして風くん見つめてるあんたも目障りだった」

「ヘラヘラ…」

「でもすぐに分かった。この子は成田風くんのことが好きなんだって。だったからずっと風くんに執着しててくれたらいいなって。でも違った」

休憩に入ったのか、何人かの吹奏楽部が屋上に出てきて休んだり、
ジュースを買いに行って、また屋上を突っ切っていったりした。

五時になろうとしていた。
風が冷たくなってきた。
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