毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「ゆめー、なにしてんの」

教室の中からゆうれいが私を呼んだ。
かっちゃんが私のほうを振り返って「おはよ」って手を振ってくれた。

心臓らへんがキュッてなる。
いつもと同じ、慣れた友達の顔。

かっちゃんは私の前で頬を赤らめたりは絶対にしない。

「茅野さん、菊池さん、おはよう」

「おはよう、こころちゃん」

天使みたいに微笑むこころちゃんに私も口角を上げて笑ってみせる。

こころちゃんは一年生の時から通学してくるのが早かった。
家がちょっと遠くて、私と同じようにバスを使っているけれど、私のほうが近かった。

ちょうどいいバスの時間が無いみたいで、登校時間よりも一時間は前に着いてしまうみたいだった。

それを聞いてから、かっちゃんも登校時間がずいぶんと早くなった。

可愛くて色白で清楚。
優しくて、一見大人しそうに見えるけれど実際は人懐っこいし、明るい。
おまけに頭も良くて、胸まである髪の毛を巻いて、ハーフアップにしているのもよく似合ってる。

誰がどう見てもこころちゃんは守られるタイプの人間だし、
かっちゃんは恋に落ちた日からその役目は自分にあるんだって思っているみたいだった。

「ゆめ、今日なんだけどさぁ」

「…ん?」

「放課後。約束したじゃん?」

「あー、うん…」

ゆうれいがかっちゃんの机に両腕を乗せて頭を預けたまま、私を見上げてニコニコと喋った。

「なにー、結芽達どっか行くの?」

「そ。俺らデートすんだよ」

「ちょっと…!デートって!」

「えー、違うん?」

ゆうれいが口を尖らせる。
そんなゆうれいを呆れた顔で見ながら、かっちゃんは「そうやってすぐ結芽のことからかうなよ」って言った。
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