毒で苦い恋に、甘いフリをした。
屋上を出て、みんなで黙って階段をくだった。

校門を出るまで誰も何も喋らなかった。
最初に沈黙を破ったのは黒崎くんだった。

「ニカ、どーする?話してく?」

「ごめん、黒崎。先に帰ってて?」

「お前ら大丈夫か?」

「だいじょーぶ!くろちゃん心配かけてごめんねっ」

ゆうれいがわざと明るく振る舞った。
そんな呼び方、したことなかったくせに…。

「場所移す?」

ゆうれいがかっちゃんに聞いた。

かっちゃんはこころちゃんに「どうする?」って聞いたけれど、それには答えなかった。

「風くん、もう私に優しくする必要なんかないから」

「こころ?」

「もう別れよ」

「…なぁ、何があったんだよ。俺らさ、けっこう混乱してんだよ。あの動画はなんなの?なんでお前らこんなことになってんだよ」

「そうだよ。結芽も市原さんも説明する義務があると思うんだけど」

「うるさいなぁ…。茅野さんは風くんのことが好きだけど失恋した。柳くんは茅野さんを慰めたくて言い寄った。風くんを忘れるために裏で二人でイチャイチャしてた。私は柳くんのことが好きだった。でも私には振り向いてくれないから腹いせに風くんと付き合った!全部この女に復讐するために仕組んだことだったの!それだけだよ」

「それだけって…。結芽と怜の様子が最近おかしいっていうのは気づいてたよ。市原さんまでなんか企んでるなんて思わなかった」

勝手に、なんでもないことみたいに他人の口から告げられた、私がかっちゃんを好きだって言葉に、かっちゃんは動じなかった。

本当に気づいていて、
それでもこころちゃんとゆうれいへの感情だけで、かっちゃんの中で私のことは“無かった”ことにされていたんだろう。

ちょっとだけ悲しそうな目をしたかっちゃんを見ていたら、言っても言わなくてもどうせ何も変えられないことに、誰の心も動かせない気持ちのために、親友との関係まで壊してしまったことに、恥ずかしくて情けなくて、消えたくなった。

「勝手に言わないで。ちゃんとかっちゃんには言ったことなかったんだから…」

「結芽…もういいよ。ごめん。ごめんな…」

「もういいって…なんなの…」
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