毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「市原さんはそれを知ってて結芽を陥れてやろうってずっと思ってたの…?」

「あの動画を撮った日にね?あー、本当に柳くんをそうやって独占するんなら茅野さんの大事なもの全部壊してやろうって思った。風くん、ごめんね?たまたま私を好きになっちゃったからこんな風に扱われちゃって。あなたは優しい人だから…ほんのちょっとは胸が痛かったよ?」

「こころ。ちょっとくらいは俺のことちゃんと好きだった?」

「男性としてぇー?」

「…あぁ」

「ううん。ちっとも」

「っ…」

「ただ、いい人だったから傷つけるのは怖かった。ほんとだよ?」

「はっ…ひっどい女…バカなのは俺だけど」

ドサって校門の外壁に背中をついたかっちゃんは、そのままズルズルと腰を落とした。

「かっちゃんまで利用することないじゃん。なんで私だけじゃだめだったの!?」

「そんなのフェアじゃないじゃん。私は茅野さんのふざけた行動のせいで柳くんのそばに居ることもできなかった!あんたはヘラヘラして都合よく風くんに甘えてたくせに!だったら同等の苦しみを与えてあげるのが筋でしょ?」

「ゆめに選択させたのは俺だから。ダメな関係でも俺は幸せだったから。俺の責任だよ」

「柳くん!なんでそんな奴庇うの!?自分のためなら誰を傷つけても平気な女なんだよ!?私は柳くんだけになれる。なんにもいらない。全部失くしたっていい!柳くんだけになれるのになんで!?」

かっちゃんがスッと立ち上がって歩き出した。
ニカが駆け寄って腕を引いた。

その手をかっちゃんは優しくほどいた。

「かっちゃん!」

「お前ら全員狂ってるよ。聞いてられるわけねーだろ…」

小さくなっていくかっちゃんの背中が、このまま本当に見えなくてなってしまったら私達の関係はもう本当に終わりなんだって確信している。

それでもかっちゃんに駆け寄る勇気も権利も私には無い。

こんなに酷い結末なら、何年も前に告白してきっぱりフラれて、それでも時間がいつか解決してくれることに委ねていたら、今頃はまだ友達として笑い合えていたかもしれないのに。
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