毒で苦い恋に、甘いフリをした。
5

甘々と対価

「二人とも、ちゃんと来たわね」

私とこころちゃんは生活指導室に立ったまま、吹奏楽部の顧問の先生と、二年生の学年主任と対面していた。

「だいたいは聞いたけど、なんでそんなことになったんだ?」

四十を過ぎたくらいの男性の学年主任は体育を担当していて、
ジャージの上からでも肩幅が広くて腕の筋肉も凄いんだろうなって分かる。

普段は気さくで偉ぶらないから生徒からの人気も高い。

「理由まで言わなきゃいけないんですか?プライバシーです」

きっぱりと言ったこころちゃんに先生達は溜め息をついた。

「お前なぁ。プライバシーだからって学校で騒ぎ起こしてる奴を見て見ぬふりできないだろ?」

「でも根掘り葉掘り聞かれたくありません。ね?茅野さん」

「え…えっと…。学校であんなことしたのは反省してます。すごく、本当に。でも詳しく話したくないです。思春期なので」

「思春期って…お前らは」

「茅野さん、市原さん?」

顧問の先生に名前を呼ばれて、私もこころちゃんも先生をジッと見た。

「どんな理由があっても暴力はダメってことは分かるわよね?」

「もちろんです」

返事をするたびにこころちゃんの声はまるで優等生の声で、昨日騒ぎを起こした子と同一人物だとは思えない。

「あなた達にとってどんなに大切な理由だったとしてもあんな形で決着つけたって苦々しい気持ちしか残らないでしょ?」

「分かってます。もうしません。私も市原さんもあれで気分が晴れたわけじゃないから。ね?そうだよね?」

「あんたに言われたら納得したくないんだけど」

「いーちーはーらー」

「分かってますって!もうしません。あんなガキみたいなこと」

「はぁー。市原ってそんなキャラだったかぁ?」

「うっわ。そういうのほんとダル」

「市原さん」

「すみませーん」

「もう教室行っていいよ。ホームルーム始まるし。二度とすんなよ!?」

「はーい」
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