毒で苦い恋に、甘いフリをした。
生活指導室を出て、私達はなぜか目を見合わせてしまったけれど、すぐにこころちゃんのほうから逸らされた。

「こころちゃん」

「…なに」

歩き出したこころちゃんの背中に向かって喋りかける。

もう二度と、個人的に言葉を交わすことは無いって思っていたのに、不思議と落ち着いて言葉が出てくる。

「メガネ、珍しいね。初めて見たかも」

「うっさいな。目腫れすぎててちゃんとメイクできなかったんだよ」

「私も私も。裸眼だけど」

「だから何?聞いてないんだけど。てかほんと…どんな神経してんの?よく普通に喋れるよね」

「あはは。普通なわけないじゃん、殺したいくらいムカついてるし」

「はぁ!?こっちがなんだけど!?」

階段をのぼりながらこころちゃんがやっと私を振り返った。

ちゃんとメイクができなかったって言ったこころちゃんの表情はいつもより幼い。

今までのかっちゃんなら新しい一面を見て、もっと好きになってたかも。

「なんで平気なの?」

「私?平気じゃないって。昨日のうちに死んじゃうかと思った」

「じゃあなんで喋ってくんの?私は喋りたくなんかないんだけど」

「なんでだろうね。あんなことされてムカついてるし余計なことしやがってって私だって思ってるんだけどね。でもさ、こころちゃんが言ってることが全部間違ってるわけじゃないしなぁって」

「はぁ?」

「そもそも私がこんなんじゃなければ、あんなことしなければ後ろめたいことも隠したいこともなかったわけじゃん?いつまでもあのままでいいとも思ってなかったし」

「ずっと黙ってるつもりだったわけ?」

「ううん。ニカにはちゃんと話してゆうれいともけじめをつけようって思ってた」

「…けじめって?」

「ちゃんと恋人同士になるとかじゃなくて。ちゃんと親友に戻りたかった。ゆうれいは優しいからそれでもきっと私を甘えさせてくれるし全部自分のせいにして許しちゃうんだろうけど」

「すっごいムカつく。柳くんマウント」

「あはは。ごめん、ごめん。でもね、ゆうれいだって分かってるんだよ。私が結局、かっちゃんを吹っ切れないこと」

「なんでそんなに…」

「こころちゃんと同じだよ」

「は?」
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