毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「どれだけ私だけを守ってくれる人がいたって、本当に好きなひとが絶対に私を好きにならなくったって、どうしても私はかっちゃんじゃなきゃダメだった。かっちゃんを好きじゃなくなる理由が無かったから」

「フラれてんのに?」

「うん。私ねぇ、こころちゃんが思ってるよりもけっこうかっちゃんに好きだって伝えてたつもりなんだよ。でもいつも誤魔化されてた。それでも嫌いになれなかった。こころちゃんだってゆうれいが振り向いてくれなくてもずっと願ってたでしょ?早く…ゆうれいの恋が壊れてしまえって…」

「………思ってたわよ」

「ふふ。私も。ゆうれいとダメなことしながらもずーっと願ってた。こころちゃんなんて消えちゃえって。ずっと」

「バカみたい」

「ほんとだね」

「バカだよ。私も…茅野さんとおんなじだけ」

「まったく関係ない人同士好きになれてたらこころちゃんとの恋バナ、楽しかっただろうな」

「地獄でしょ。執着強めの激ドロ恋バナなんて」

「そうかも」

階段をのぼっていくこころちゃんの背中を追いかけた。

教室に入ったらクラスメイト達の視線を一斉に感じた。

昨日の騒ぎも、かっちゃんとこころちゃんが別れたことも、私とこころちゃんがゆうれいの取り合いをしているらしいってこともあっという間に広まっていて噂になっていたけれど、こころちゃんが私の耳元で囁いた。

「勝手に言わせとけばいい。有名税でしょ?」

なにそれって思ったけれど不思議と笑えた。

笑ってる私をみんなもぽかんとして見ていた。

こころちゃんが自分の席に座りながら「おはよう」って優しい声でゆうれいに言った。
天使の笑顔で。

ゆうれいはまばたきを繰り返して、「おはよ」って八重歯を覗かせた。

「かっちゃん、おはよ」

「結芽」

「おはよ」

「おはよ…」

こっちはまだぎこちない。
ちょっと離れた机の隙間分を埋める勇気は、私にはまだ無い。
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