毒で苦い恋に、甘いフリをした。
かっちゃんのおうちに来るのっていつぶりだろう。

中学の同級生とか、高校生になってもみんなと遊びに来たことは何回もあるけれど、二人っきりはもちろん初めてだった。
こころちゃんは何度遊びに来たのかな。家族も公認だったのかな。

そんなことを今更考えて嫉妬したって本当にもう無意味なのに。
今でもやっぱり「二人だけの思い出」は、かっちゃんとこころちゃんのほうが多い気がした。

「どうぞ。上がって?」

「うん。お邪魔します…」

「どっちがいい?」

「どっちって?」

「リビングと俺の部屋」

「えっ…」

「なに緊張してんの?」

かっちゃんが首を曲げて覗き込んでくる。
顔が近いっ…!
かっちゃん…どーしちゃったの!?

「緊張なんて別にっ…かっちゃんのお部屋に入ってもいいのかなぁって…」

「なんで?もう何回も入ってんじゃん」

「そうだけど…」

「親居ないしリビングでもいいんだけど、好きなほうでいいよ」

「じゃあかっちゃんの部屋で…」

「じゃあ行こ」

何かを勘繰るような笑い方をしてかっちゃんは階段を上がっていく。
かっちゃんの意図が全然分からなくて、さっきから私はずっと戸惑っている。

昨日あんなことがあったばかりなのになんでこんなに穏やかな笑い方をするんだろう。
私にもこころちゃんにも酷く傷つけられて、こころちゃんのこと大好きだったからすごくショックだったに決まってるのに。

「ゆーめ、なにやってんの。早く」

「うん、ごめんね」

かっちゃんの部屋に入ったら、「かっちゃんの部屋だ」って妙な実感が湧いてくる。

見慣れた部屋。
モノトーン基調な色使いも勉強机に並べられたお気に入りの小説も、窓から見える景色も何も変わらない。

かっちゃんはブレザーを脱いで勉強机の椅子の背もたれに掛けた。

「ん」

「ん?」

手を差し出されてきょとんとした私にニコって笑いながら、壁のフックからハンガーを取ったかっちゃんが言った。

「ブレザー。脱いだほうがラクでしょ?」

「あ…あー、そうだけど…いいの?」

「何が?」

「もしかして私のをハンガーに掛けてくれるためにかっちゃんは椅子に掛けたの?」

「ハンガー、一本しか無かったから」

「いいのに…」

「いーから!」

「ありがとう」
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