毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「結芽、黒崎と学食行くけど行く?」

「………いいの?」

昼休みになった。
財布を片手に持ったニカが私の席まで来て誘ってくれた。

「黒崎、いいよね?」

「もっちろん」

「でも…」

「ねぇ、もうやめよ。私達もギクシャクすんの」

「ニカはいいの?」

「だって私、この件に関しては部外者だし。あんたが親友に酷いことしてたからムカついてただけ。でも結芽が反省して、本人達もそれでよくなったんなら私だっていつまでも親友に怒ってたくないよ。カロリー使っちゃうし?」

「は…あはは…かっちゃんじゃん」

「あはは!早く行こっ!」

「うんっ」

ニカと昼休みを過ごすのはすごく久しぶりに感じた。

ニカはやっぱり大人だ。
こうやって歩み寄ってくれることが当たり前なんかじゃないってちゃんと覚えておきたいな。

「結芽はなんにする?」

「んー、きつねうどん」

「おいなりさんもあるよ」

「んーーー、食べる」

「揚げばっかだな」

黒崎くんが言って、ニカが「いいでしょ!」って肘で小突いた。

「黒崎はどうすんの?」

「生姜焼き定食!」

「あっ、あそこ空いてるよ!」

ニカがじょうずに人を避けながら席を確保してくれた。
私はうどんをこぼしてしまわないようにすごく気をつけて歩いた。


「いただきまーす」

おいしそうにご飯を食べるニカは可愛い。
私のニカ撮影欲が疼いてしまう。
ちょっと前なら構わずパシャパシャ撮っていたと思う。

今はまだ反省期間中だし、お食事中だから我慢、我慢。

「ここ、いい?」

「えっ…」

聞き慣れた声に、顔を上げたらやっぱりゆうれいだった。

私の隣のパイプ椅子を引いてゆうれいが座った。

「ここしか空いてないから。だめ?」

「いいけど…」

「柳ぃー、失明?あっちも空いてるけど」

「バカ!黒崎なんでそんないじわる言うの!怜、気にしなくていいからね」

「くろちゃんには聞いてないからだいじょうぶー。ゆめとニカがいいなら一緒に食べよ」

「いいに決まってんじゃん。ね?結芽」

「うん」

正直ものすごく気まずい。
心臓もドコドコ太鼓みたいに鳴って、うどんの味もおいなりさんの味も分からない。

自分がゼンマイ仕掛けのおもちゃになったみたいにぎこちなく首を動かして隣のゆうれいを見た。

おいしそうに食べる顔。
懐かしいな。
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