毒で苦い恋に、甘いフリをした。
白浜前のバス停で降りたら海はもう目の前。

学校の周りよりもすごく潮の香りがする。
海水浴場として開放される時期には海の家もあるし、
人もいっぱいになる。

今はまだまだ閑散期だから波の音がずっと大きく聞こえる。

「行こ」

ゆうれいが私の右手を取って走った。
砂浜に降りる小さい石階段を一緒に駆け降りて、
走りにくい砂浜を波打ち際まで進んだ。

ローファーの中に砂がいっぱい入ってきてジャリジャリする。
靴下も汚れてしまったと思うけれど全然気にならなかった。

「あーっ!やっぱ気持ちいいな」

「うん」

ちょっとだけ湿気を含んだ生ぬるい風。
普段なら不快なはずなのに、今は平気だから不思議だった。

「元気出た?」

「やっぱ私のためだった?」

「んー?」

「海に連れてきてくれたの。息抜きさせてくれたのかなって」

「あのさ…」

「うん?」

「息抜きって変だよ」

「変?」

「…ゆめは風のことが好きで、それがストレスになってて息抜きが必要なんだったら変だよ」
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