毒で苦い恋に、甘いフリをした。
顔を見合わせて、もうなんだかおかしくなって、二人で笑った。

「ねぇ…なんでなの?そんなに好きだったひとの印象すら忘れちゃうの?おんなじ教室にいるのにっ…」

「だから言ったじゃん。茅野さんは全然分かってないって」

「なんでよ」

「簡単にあっさりなんて忘れてるわけないでしょ。優しい人を傷つけても、クラスメイトに逆恨みして復讐までしても繋ぎ止めたかった人だよ。簡単に忘れるわけない」

「ゆうれいは…言ってたよ。すごく好きだったひとを忘れてしまうほうが苦しいんだって」

「柳くんはそういう人だよね。知ってるよ。茅野さんを想ってる柳くんを見てれば分かる。だからさ、これが最後の私の悪あがき」

「悪あがきって?」

「柳くんは絶対に私を好きにはなってくれない。だから全力で忘れてやろうと思った。散々ブチ壊してめちゃくちゃにしたくせに私はさっさと忘れてやるの。悔しいし、ちょっとムカつくでしょ?そしたらほんの少しでも、あんな最悪な女居たなってくらいには憶えててくれるでしょ?最後の私からの嫌がらせよ」

「それでいいの?」

「いいに決まってんでしょ。だって柳くんは私との素敵な思い出すらまったく憶えてくれてないんだから。茅野さんのせいでね?だからこれくらいは許して欲しいわよ」

「じゃあ今は何がムカつくの」

グッと腕を空に向かって伸ばしたこころちゃんが気持ち良さそうに背伸びをした。

「ほんと、復讐なんて全然面白くなかった。自分が何を望んでたのかもよく分かんなくなっちゃったしさ。茅野さんと柳くんがブッ壊れてくれてうれしいはずなのに」

「うん…」

「私を絶対に許さないでね」

「許さないけど…」

「あはは!そこだけはしっかり意思強めなんだ?…ちゃんと言えばよかった」

「ゆうれいに?」

「うん。ちゃんと、好きだったって。茅野さんのことが邪魔だった。でも私は茅野さんみたいに必死で執着することすら怖がってたくせに。結局周りに守られてる茅野さんが嫌いだった」

「私は世界で一番こころちゃんが羨ましかったよ。こころちゃんになりたくて、大嫌いだった」

「うん。私も、同じ」

「うん…」

「茅野さんの人生を私が壊す資格なんかなかったのに。結局執着から逃げられないなら逃げられないでどうにかすりゃあいいのに、私が居なくても拗らせあっててさ、何やってんのってムカついてたけどあなたの世界を壊したのは私だった………ごめんなさい」

「恋を…」

呟いた私の手をこころちゃんが握って、すぐにそっと離した。
一歩、私から距離を取って、こころちゃんはたぶん、無理をして口角を上げるだけで笑った。

「恋を壊してごめんね」

「全部忘れて、私みたいないい女逃してバカだったって盛大に後悔させてやる。絶対に。茅野さんよりいい恋するんだから」

「うん。私も…大切な人にとって恥ずかしくない人間になるよ」
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