毒で苦い恋に、甘いフリをした。
三年生になった。

去年の新学期にも思ったけれど、今年も四月に入ったあたりから雨が続いている。
桜の花が満開になる時期も少し遅れているらしい。

体育館に張り出されたクラス分けの表を見上げる。

一組から順番に、って思っていたら、「か」の私の名前はすぐに見つかった。
私より前にこころちゃんの名前は無かったし、
すぐ後ろにニカの名前も無い。

自分の名前だけを確認して、教室に向かう。

教室に入ったら新しくクラスメイトになった女子達が何人か「よろしくね!」って声をかけてくれてうれしかった。

三年生、最初の席は名前順だった。

今日は久しぶりにいいお天気で、春らしいやわらかい風と心地よい陽射しで眠たくなってしまいそうだった。

開けられた窓からの風でカーテンが揺れる。
窓際の一番後ろの席に座っている人。

学年が変わる新学期にはそうすることが義務なのか。
陽の光を受けてキラって光る、金髪ヘア。

「ゆうれい…」

頬杖をついて窓の向こうを眺めていたゆうれいがゆっくりとこっちに振り向いて、八重歯を覗かせた。

椅子から立ち上がったゆうれいが歩いてくる。
そばに居た女子達は、ゆうれいと同じクラスになれてうれしそうだった。

「来て」

「えっ…え?私…!?」

「当たり前でしょ」

手首を掴まれて、廊下に連れ出される。
懐かしいゆうれいの手の体温に、鼻の奥がツンとしてしまって、何に感情揺らされてんだ!って首を振った。

「俺らだけおんなじになっちゃったね」

「ん…。そうみたいだね。ゆうれいとだけは離れたかったんだけどな」

「ひどー。他の三人と一緒のほうが気まずくない?」

「ううん。ゆうれいが一番気まずい」

「なんでー?ぜーんぶしちゃったから?」

「全部って?」

「本性も、体のこ・と・も!」

「………いじわるすぎ」

「ごめんね。いじわるくらい、いいでしょ?」

あどけない表情で微笑むゆうれいを見ていると、自然と頬がゆるむ。
ゆうれいのずるいところ。なんにも変わらない。

「ゆめ、ありがとな?」

「なにが?ありがとうっていうか、恨むとこでしょ」

「ううん。ありがとう。俺に奇跡を教えてくれて」

「奇跡?」

「夜の虹」

「あ…」
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