毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「せいかーい」

黒崎くんは、この前体育のときにちょっかいをかけてきた男子だった。

女遊びが激しいから気をつけなってニカに言われていたし、
なぜかゆうれいが警戒して近づけないようにされていたからあれ以来、あんまり言葉すら交わしていなかった。

小学校から今まで。
十一年間だから、私とかっちゃんの五年目よりずっとずっと長い。

「ニカ、黒崎くん達のグループのこと危ないって言ってたじゃん」

「危ないっていうか、あの中の誰かが結芽のこと適当に扱ったらムカつくから注意してたの」

「そっか…ありがとね?でも黒崎くんは…」

「好きだったの。本当に、好きなの。今も」

「今も?」

「うん。中一のときに告ってフラれて。それでも好きだったし、黒崎の対応も変わんなかったし。でも、その頃から女遊びするようになって」

「なんで…」

「さぁ…。私への当てつけかもね」

「なんで?だってフッたのはあっちじゃん」

「だからじゃない?お前は恋愛対象にもならないって見せつけたかったのかも」

「それなら最低すぎるよ!」

「そうなの。最低なの。なのに私にはさ、優しくするんだよ。家も近いから放課後遊びに来たりしてさ。だから抜け出せなくなって…。でもそのうちに他の女の子と遊ぶことが増えていって。もう取っ替え引っ替え。中三くらいにはうちに来ることも全然無くなってた。悔しいから、だから私もいろんな人と付き合うようになったの」

「ニカも当てつけしたの?」

「そ。正真正銘の当てつけだよ。本当に好きなひとと恋人になれないのならもう誰でもなんでもいいやって思っちゃった。一番に好きなひとは私を好きにならないのなら私も最低になろうって思った」

「ニカ…あのね、ごめん」

「ん?」

「ニカの恋が叶わなくて私も悲しいけど、ニカが当てつけとか自分を傷つけるために男の子を利用してたのならもっと悲しいよ」

「うん。そうだよね。だから反省したの」

「やめようって思ったの?」

「うん。こんなことはもうやめる。傷つけちゃった人達のことはもう戻らないけど…もうこんなことしない」

「そっか…。でもじゃあ今は何に落ち込んでんの?」

ニカが持っていたサンドイッチを包みの上に置いた。
パンが乾燥しているみたいに見えた。
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