毒で苦い恋に、甘いフリをした。
五時間目は美術だったから美術室まで移動した。

そういえば、お昼休みが終わってもゆうれいが教材を取りに教室に戻ってきているのを見ていない気がする。

授業が始まる五分前。
美術室にもゆうれいの姿は無かった。

「ニカ、ごめん。ちょっとお腹痛いかも」

「え?大丈夫?」

「うん。トイレ行くね。戻ってくるの遅くなるかも」

「先生にはこっそり言っとくから」

「ありがと」

顔の前で手を合わせて、持ってきた美術の教科書とスケッチブック、筆箱を持って、また教室まで戻った。

今はスケッチブックに自分の手をデッサンする授業だった。
絵の具を使わないから荷物が少なくて助かる。

教室にもゆうれいは居ない。

机に教材を置いて、思い当たる場所を目指して階段をのぼった。

その場所まで来て、重たい鉄扉を押し開ける。

屋上の真ん中で、大の字に寝転んで空を見上げるゆうれい。

屋上が通路になって繋がっている向かいの棟には音楽室と吹奏楽部の部室が入っている。

もう授業は始まっていて、音楽室からどこかのクラスの合唱が聴こえてきていた。

空はうすい水色だった。
雲も薄っぺらくて、水色が透けている。
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