毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「やっぱりいたー」

「ゆめ」

寝転んだまま首だけを動かしてゆうれいがこっちを見た。

眠たいのか、ゆめって呼ぶ声がいつもよりとろんとしている。

「授業始まってるよ」

「んー。いいの。絵、苦手」

「うそ。ゆうれい、絵うまいじゃん」

「そんなことない」

「バレたら怒られるよ」

「じゃあなんで探しに来てくれたの」

「別に…。ずっと居なかったから気になっただけ」

ゆっくりと体を起こしたゆうれいがあぐらをかいて背伸びをした。

「んーっ」

「気持ちいい?」

「ん。ゆめと二人っきりみたいで気持ちいい」

「変なの」

ゆうれいの制服のシャツが、ボタンを全部開けているから風に流される。
下に着ているTシャツは真っ黒でなんのロゴも描かれていない。

ゆうれいが空を見上げたまま気持ちよさそうに目をつむる。
口角だけがキュッと上がっていて、
私が知っている人類の中で一番気持ちよさそうなひとだなーなんて、くだらないことを考えてしまった。
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