毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「ゆうれい、暑くない?」

「なんでー?」

「黒は太陽の熱を吸収しやすいんじゃなかったっけ」

「あはは。それじゃあ黒着てるひと全員大変じゃん。今日は風がいい感じだからだいじょうぶ」

目をつむったままのゆうれいの胸やお腹らへんをジッと見ていたら、
わずかに動いていて、当たり前だけど呼吸してるって分かった。

生きてる、って思った。
この空間に私達しか居ないみたいな錯覚のせいかもしれない。

ゆうれいが生きてるってことが目に見えて分かってうれしかった。

風に揺れるゆうれいの前髪をそっと指ですくった。

「前髪、けっこう伸びたね」

「そー?」

「うん。切らないの?」

「前髪短いほうが好き?」

「目にかかるくらいは嫌」

「じゃあ切ろーっと」

「短すぎるのも嫌だよ?」

「わがままー」

前髪から指を離した。
パッと目を開けたゆうれいが私の手首を掴んだ。
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