毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「ゆうれい?」

「もっと触ってていいのに」

「なに言ってんの…」

「ゆめ、戻んないの?授業」

「今更もういいよ」

「先生怒ってるかな?」

「ニカにお腹痛いって言ってきたから大丈夫だよ」

「俺を探すために嘘ついたの?」

「そうだよー?」

「へー。うれしい」

「なんでサボってんの?」

「別に。気分だよ、気分。絵が描きたくなかっただけー」

「子どもっぽーい。ねぇ、」

「んー?」

「そのTシャツ、星描きたくなるね」

「星?」

「うん。真っ黒だから。夜みたい。でも暗すぎる夜は怖いから星描きたい」

「部屋が真っ暗だと眠れない子?」

「ううん。真っ暗じゃないと眠れない」

「あはは。言ってること矛盾してるじゃん。でもそっかぁ。なーんだ。怖いなら一緒に寝てあげるのに」

「ばーか」

「あのさ、朝の流れ星とか、夜に架かる虹とか、ゆめはあると思う?」

「朝の流れ星に…夜の虹?」

「すげーメルヘンでしょ。でも夜に虹が架かるなら、暗いのが怖いひとも平気になれるし、朝に流れ星が見られたらちょー憂鬱な朝も頑張れそうじゃん」

絵本の中のおとぎ話みたいなことを、ゆうれいは瞳をキラキラさせて言葉にした。
さっきまで眠たそうな、気だるげな目をしていたくせに。

「あはは。そうだったら素敵だよね。うん、そうだね。あると思うよ。一生に一度くらいは、そんなこともきっとある」

「一生に一度」

そんな奇跡がもし起こるなら、その一生に一度を絶対に手に入れて…、
今ならかっちゃんじゃなくてゆうれいに一番に見せてあげたいって思った。

自然現象でも人工的にでもいい。
そんな奇跡の前で、またキラキラしたゆうれいの瞳を見てみたい。
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