毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「もしそんなことが起こったらさ、ゆめに一番に教えるからね?」

「…今、私もそう思ってた」

きょとんとしたゆうれいの表情。
急に恥ずかしくなって、ゆうれいの真っ黒のTシャツに視線を逃した。

そのTシャツに星は瞬いていないし、虹も架かっていない。

真っ黒のTシャツよりも、
視界がもっと暗くなる。

咄嗟に目をつむってしまったから。

ゆうれいの匂い。

くちびるの感触。

私とゆうれいのくちびるの温度が混ざり合って、
私が私じゃなくなっていくみたいだった。

「え…」

「俺のこと思ってくれたゆめ、可愛すぎるからムリ」

「え、ちがくて…違うじゃん…え、なんで?」

「キスのこと?」

「…っ」

「ちがくないよ。違うことにしないで?キスしたこと、ほんとだよ」

「だから…なんで?」

「ごめんね。嫌だったよね?でもごめん。止まれなかった。言ったじゃん。待ち疲れたんだって。なのにゆめが風よりも最初に俺のこと思ってたなんて挑発するから」

「そんなつもりは…!」

「だったらゆめはいじわるだ。すごく、いじわるだよ。でもそれでもいいんだ。その約束だけは俺にくれない?」

「約束?」

「もしもそんなメルヘンな奇跡が起きたらさ、俺だけにその奇跡をちょーだいよ」

ゆうれいのくちびるから覗く八重歯。
頬の下にできるえくぼ。

奪われちゃったファーストキス。
怒らなきゃいけないのに、心臓がギュッと締めつけられて、ちょっと鼓動が速くなってる自分が悔しかった。

「かっちゃんには言わないで…」

「キスのこと?いーよ。二人だけの秘密だもん。当たり前じゃん」

ねぇ、かっちゃん。
こんな私にまだかっちゃんを好きだって言う資格はある?

ゆうれいを拒むことも怒ることもできない私に、
一途にあなたを好きだって言える権利はあるのかな。
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