毒で苦い恋に、甘いフリをした。
五時間目が終わるチャイムが鳴った。

結局、美術の授業を全部サボってしまった。

「教室戻ろ。音楽室からも出てきちゃうよ」

「ゆめ」

「なに、早く…」

「俺、ほんとにもう止まれないからね?ゆめのこと全部欲しくなっちゃった。風がゆめにその気が無いのならもう遠慮しない。覚悟してて?」

ゆうれいの言葉はどこまでも私に甘い。

なのにどこまでも私を傷つける。

かっちゃんにその気が無いことなんてとっくに分かっている。

友達以上に見てくれているとすれば、
良くてせいぜい”家族“なんだろう。

かっちゃんがこころちゃんを想う恋愛感情を、
私は一生知ることはできない。

女の子としてかっちゃんに好きだって言ってもらえる幸せを、私は一生知ることはできない。

そこに付け込むゆうれいの甘さは、毒だ。

「親友だから」

「んー?」

「ゆうれいは…親友だから。変な期待しないで」

「それを壊すって言ってんの。俺はさ、ゆめとの友達関係を壊したいんだよ。そんなのはもう要らない」

「壊すって…」

「ゆめのそばに居られるならこのままでもいいなんて綺麗事はやめるよ。このままなんてもう絶対に嫌だ。俺はこの関係を壊すから。絶対に男として好きだって言わせてみせる。だから覚悟してなきゃだめだよ?」

立ち上がったゆうれいがまた背伸びをして「行こっか」って手を差し出してきた。

その手は取らないで、自分で立ち上がってゆうれいに背を向けた。

音楽室から出てきた生徒達の声でガヤガヤと屋上が騒がしくなった。

私もクラスネイトです、って何食わぬ顔をして、
屋上の階段を駆けおりる。

ゆうれいのほうは振り向かなかった。

顔の周りが熱っぽい。

ゆうれいの言葉を頭の中で繰り返してしまわないように、美術室に戻らなかったことのニカへの言い訳を考え続けた。
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