毒で苦い恋に、甘いフリをした。
ホームルームが終わって、机の中の教科書を鞄にしまった。

いつもなら、明日も使う教科書は“置き勉”してるんだけど、
職員会議のあとに置き勉チェックがあるって予告されていた。

いつもより重たい鞄って憂鬱…。

「風くん、今日って用事ある?」

教室の真ん中のほう。
かっちゃんとこころちゃんの並んだ席から、
こころちゃんの可愛い声が聞こえてくる。

嫌でも聞き耳を立ててしまう。
私と話すときよりもゆるい口調のかっちゃんの声に。

「ないよ。どうした?」

「よかったぁ。あのね、今日も遊べないかな?ちょっと話したいことがあるんだけど」

「いいよ。どっか行く?」

「んー…できれば、風くんのおうち…だめかな?」

だめなわけない。
そんな可愛い声で言われたら。

かっちゃんなら用事があったって無いって言うだろうし、
こころちゃんに誘われたらおうちだろうが地獄だろうが、きっと一緒に行ってしまう。

「俺んちでいいの?全然大丈夫」

「やった。じゃ、行こ?」

「黒崎くん!」

かっちゃんとこころちゃんが席を立つとき。
わざとらしく立ち上がった私の椅子の脚が、荒く床とこすれてガタンって音が鳴った。

教室を出ていこうとする黒崎くんを呼び止めた。
かっちゃんにアピールするみたいに。
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