毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「茅野さん?どーした?」

私から話しかけることなんて初めてだったし、
この前のことがあったから黒崎くんは不思議そうに私を見た。

「ゆめ」

ゆうれいがそばに寄ってくる。
心配そうな目をしている。

「あのね…あの、もし良かったら夏休みなんだけど…」

「夏休み?」

「うん、まだ先の話なんだけど、もし良かったら一緒に花火大会、行かない?」

「はー!?ゆめ、なんでっ…」

「花火?茅野さんと?」

ゆうれいと黒崎くんが驚いて同時に声を上げる。
周りにいた人達がチラチラとこっちを見ていて恥ずかしい。

「結芽!」

やっとニカが来てくれてホッとした。

「ニカ…」

黒崎くんがニカに視線を向けた。
私を見ていたときとは違う目つき。

優しい目。
やっぱりこの二人は素直になれないだけなんだ。

「あのね、去年はニカと行ったんだけど、今年は黒崎くんもどうかなーって。幼馴染なんだよね?」

「え…あぁ、そうだけど…」

「男子一人じゃ気まずいかもしれないからさ、ゆうれいも来るし!」

「は!?俺!?」

「来るでしょ?」

「そんなん今聞いたばっか…」

「だから誘ってんじゃん。来るよね?」

「………はい」

「だって。ね、黒崎くん、いいでしょ?」

「いや強制じゃん」

黒崎くんはちょっと苦笑いしたけれど、
頭を掻きながら「分かったよ」って呟いた。

ニカも黒崎くんもお互いのほうは見ていないけれど、
うれしいって表情をしていることは分かった。

「じゃあまた近くなったら言うね。ニカも黒崎くんも連絡先知ってるんだよね?ちゃんと連絡しあってね?」

「はいはい…。じゃ、行くわ」

ひらひらと手を振って、黒崎くんは行ってしまった。

「ちょ…ちょっと結芽!」

ニカに廊下まで引きずり出される。
教室を振り返ったら、こっちを見ていたこころちゃんと目が合って、逸らされた。

かっちゃんと一緒に教室を出ていく。

かっちゃん、私が男子に話しかけてどう思ったかな。

嫉妬、はするわけない。
感情が動いたとしたら、ただの“心配”だけだよね。
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