毒で苦い恋に、甘いフリをした。
翌日。

登校したらかっちゃんの席の周りがいつもより賑やかだった。

かっちゃんとこころちゃんを取り囲むようにして喋っているのは黒崎くんのグループの男子達だった。

「ニカ、おはよ。何、あれ」

「結芽…おはよ…」

ドクンッて鳴った心臓。
嫌な予感がする。

ゆうれいがこっちに気がついて、目が合ったのに珍しく一瞬、逸らされた。

それでも私達のほうに来ようとしていたけれど、
鞄を置いて、私は教室を出てしまった。

「結芽!」

「ニカちゃん、だいじょうぶだから」

後ろからニカとゆうれいの声がする。

何が大丈夫なんだろう。

先に来ていたニカの表情を見れば分かる。

いつもはかっちゃん達を冷やかしたりしない男子達を見ていたら、嫌でも分かってしまう。

私が大丈夫じゃないってことだって、ゆうれいなら分かるくせに。

「ゆめ…!」

さっきのぼってきたばっかりの階段を駆けおりて、下足箱も通り過ぎて、教室に行くのとは反対側の階段の前まで来たところで捕まった。

「ゆめっ、待ってって。どこ行くんだよ…」

「知ってたの?」

「え?」

「あれ」

「知らないよ。登校したらもうあの状態で…」

「なんで男子達が集まってんの」

「…二人が登校してきたときに手繋いでたんだって冷やかされたんだって。あいつら、だる絡みしてんだよ」

「なんで急に」

「昨日だってさ。俺らが一緒に居るときに」

「へぇ…そっか…。こころちゃん、なんか話したいことあるって言ってたもんね。そっかぁ。かっちゃん、よかったよね。ちゃんとこころちゃんに気持ちが届いて」

「ゆめ」

「おめでとうって言ってあげなきゃ」

「ゆめ、帰ろ」

ゆうれいが持っていた鞄を私に押しつけた。
自分の鞄も持っている。

「なに言ってんの。ダメに決まってんじゃん」

「いいから」

「二人とも何してるんだー?」

廊下に背を向けていた私達の後ろから担任の先生の声がした。

「先生…」

「先生、ゆめが昨日から体調悪くて。帰っていい?」

「あー、美術も欠席したみたいだな。無理すんなよ」

「心配だから付き添いたいんだけど」

「茅野、一人じゃしんどそうか?」

「先生ー、女子にそんなこと聞いたらデリカシーないっす」

「お、柳。喧嘩売ってんのかー?」

「あはは。もういいって。ほんとにしんどいから、いいでしょ?今日だけ」

「お前らなー。社会はそんなに甘くないからな?」

先生はたぶん、気づいている。
ゆうれいの嘘に。

それから私の様子がいつもと違うってことにも。

本当はダメなことなんだけど、
先生は目をつむってくれた。

「今日だけだからな」

「マジ先生、尊敬してますっ!」

「調子良すぎだろ。茅野、気をつけてな」

「すみません…」

「柳、お前は午後からでもいいから来いよ」

「はーい」
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