毒で苦い恋に、甘いフリをした。
校門を出た。
一回は渡そうとしてきた鞄を、結局ゆうれいが持ってくれている。

「バス乗れる?」

「うん」

「タクシーでも呼ぼっか?」

「ばか。てかさ、失恋したくらいで早退なんてめっちゃ悪いよ。やっぱ戻る」

「いいじゃん、もう。そんな真っ青な顔していられたほうが気まずいって」

「失恋したからって誰も早退したりしないよ。だめだよ」

「じゃあ今日だけ。俺と悪いことしよ。ストレス発散!」

「バチ当たるよ」

「当たってもいーよ」

ゆうれいが私の手を取ってどんどん歩いていく。
バス停とは違う方向だった。

何度も呼び止めてるのに止まってくれなくて、
そのまま辿り着いたのは、ゆうれいのおうちだった。

「なんで?」

「こっちのほうが近かったから」

「いやいやムリ。帰るか学校戻る」

「頑なだなー。何がムリなんだよ」

玄関の鍵を開けて、どうぞってゆうれいが微笑んだ。

もう引き下がれなくて「おじゃまします…」って小さく言って、ゆうれいのおうちに上がった。
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