毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「おうちの人、居ないの?」

「父も母もお仕事でございます。妹はがっこー」

「あー。そういえばゆうれいって妹ちゃんいたよね。いくつだっけ」

「小二」

「え、めっちゃ幼女」

「ヤな言い方すんなよ」

「あはは。ごめん」

「ちょっとは気分マシになった?」

「…ん。目の前に居ないとね。平気」

「ちょっと待ってなー…えーっと、麦茶しか無いや。いい?」

「うん。ありがと」

ゆうれいが麦茶の入ったボトルとグラスを二つ、トレーに乗せて、「階段上がって」って私に促した。

「左の突き当たり」

「はい」

ゆうれいのおうちに来ること自体が初めてだったから、
お部屋に入るのも当然初めてで、失恋しただけでこんなことになってることに、なんかすごく罪悪感…。

いや、何を想像してるんだって話なんだけど。

「どうぞ」

「ありがと」

テーブルに置いてくれた麦茶を一口飲んだ。
肩で息をついて、体のちからを抜いた。

なんでだろう。
遂に五年間の大失恋をしたのに、涙は出てこない。

虚しさとか悔しさとか、悲しいとかいろんな感情を思い浮かべてみたけれど、
どれもしっくりこなかった。

今までかっちゃんに彼女がいたときとは違う感情。

今度こそ本当に、このままじゃいられなくなる気がした。
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