毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「びっくりしたな」

「そうだね」

「ゆめはもしかしたら昨日のうちに聞いてるって思ってた」

「全然。ってか、そうだよね?言ってくれたらよかったのに」

「風も案外ずるいのかも」

「なんで?」

「キープ、じゃないけどさ。彼女ができたからってゆめのこともそばに置いときたくて。そういう話題は避けてるとかさ?」

「またそういうこと言うの?こんなときに…」

「こんなときじゃなきゃ風のネガキャンできないからなー」

「ほんっと、一番ずるいのはゆうれいだからね」

「そうかも」

ゆうれいが羽織っていたブレザーを脱いで、ネクタイをゆるめた。

ちょっと目のやり場に困って、部屋に視線を泳がせた。

初めてなのに、初めて来た気がしないのはなんでだろう。

あの純喫茶と同じ。
妙に落ち着く雰囲気。

それがゆうれいのそばだからかもしれないなんて、失恋したからってそんな感情になるのは、私もずるい。

「なんで急になんだろうな」

「急にではないんじゃない。けっこう二人で遊んでたし」

「でもなんかさ、風じゃなくて市原さんから言ったっぽいじゃん」

「よかったじゃん。かっちゃんがなかなか言い出せなくてこころちゃんも我慢の限界だったのかも」

「意外と押すタイプなんかなー」

「かもね。ゆうれいさぁ、」

「ん?」

「ラッキーって思ってる?」

「は?」

「私がやっと失恋して。チャンスだって思ってる?」

「お前なぁ…。そこまでクズじゃないです」

「だって壊したかったんでしょ?」

「俺は…ゆめが失恋しちゃう前にコロッと俺のほうが好きーってなってくれないかなーとか思ってただけで!本当に悲しむゆめが見たかったわけじゃない」

「でも私が傷ついてよかったじゃん」

「それは風がつけた傷だから。真っ青になるくらい風のこと好きだったんだって突きつけられて最悪な気分です」

「ふーん」

立ち上がって、ゆうれいが脱いだブレザーをハンガーにかけた。

「同棲みたい」なんて、ゆうれいがふざけた。

「ゆうれい」

「はい」

ベッドに座っていたゆうれいの隣に一緒に座った。

もう一人座れそうなくらいの距離を保ったのに、
肩がぶつかりそうなくらい、詰められた。
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