毒で苦い恋に、甘いフリをした。
3

さよならの練習

一時間目が終わって真っ先に私の席に来たニカに、なんにも言わないで、むしろ私にも有無を言わせない勢いで腕を掴んで廊下に連れ出された。

「ちょっとニカ痛いよっ…!」

廊下の壁に背中が付くくらい押しやられる。

ニカに壁ドンされてしまった、なんて思った。
間近で見てもやっぱりすごく整った顔。

こういうシチュエーションこそ写真に収めたいけれど、
そんなことを今言ってしまったらニカはきっと火山くらい憤慨する。

「結芽、なんで?もう誘わなくてもいいじゃん」

「かっちゃん達のこと?ゆうれいが気まずいかもしれないじゃん」

「いや、ほんとのカップルがいたほうが気まずくない?」

「でもこころちゃんは喜んでたじゃん。私達とも仲良くなりたいからって」

「気ぃ遣う必要ないじゃん!もうカップルになったんだから…うちらとはいつでも遊べるじゃん。怜だけでいいでしょ?ダブルデートみたいな感じでさ」

「なんでそんなに拒否んの…仲良くしたいって思ってくれてるならそれでいいよ…」

「なんでわざわざ自分から傷つきにいくのよ!」

ニカが大きい声を出した。

ニカは怒ってるんじゃない。
こころちゃんを拒否ってるわけでもない。
そんなことくらい分かっている。

私を心配してくれているだけだ。

昨日、一緒の教室に居ることすらできなかった私が、
わざわざ一緒に花火大会に行って、それこそ“恋人同士なんだ”ってことを見せつけられる。

そんな苦しいことを率先してする必要なんかないのに。
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