毒で苦い恋に、甘いフリをした。
放課後。

今日はニカが日直で、日誌を職員室に持っていくのを教室で待っていた。

「結芽?」

「あれ、かっちゃん?」

ブレザーは脱いでいて、ゆるく締めたネクタイに、シャツのボタンが二番目まで外されていて、
暑そうにパタパタと首元から風を送っていた。

「なんか居残りとかあったっけ?」

「ううん。ニカが日直だから待ってんの」

「あー、そうだったな」

「かっちゃんは?」

「みんなでサッカーしてた」

「へー。ゆうれいは?」

「運動場にいるよ。俺は喉が渇きまして!」

「あはは。変な言い方。…こころちゃんは?」

「お母さんと約束してるんだってさ。もう帰ったよ」

「そっか」

学校内の自販機で買ってきたのか、
持っていたパックのお茶をかっちゃんはおいしそうに飲んだ。

「なんかさー」

「うん?」

「結芽と二人で喋んの久しぶりだな」

「そう、だね…。だって最近はずっとこころちゃんと一緒じゃん」

「おー?もしかして拗ねてる?」

かっちゃん、それ冗談になんないよって思ったけれど、言わなかった。

かっちゃんの自覚の無い甘やかし。
ちょっと前なら浮かれてドキドキしてたんだろうな。

今はちょっと凹んじゃうかも。
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