毒で苦い恋に、甘いフリをした。
ぽん、って私の頭を撫でて、
「戻るわ」って言ってかっちゃんは教室を出ていった。

目の前がグルグル回っているみたいに見えた。

牽制された?
ほんとは私の気持ちに最初から気づいていて、
これ以上近づくなって遠回しに言われてるの?

…違う。
たぶんあれはかっちゃんの本心で、
私にそんな素振りがないのにいきなり冷やかすなって言ってるのも本当。

親友としてゆうれいのことを応援しているのも本当。

かっちゃんは私とゆうれいが恋人同士になることが幸せの形だって思ってる。

私はまだかっちゃんに告白していないから。
言葉でちゃんとフラれたわけじゃないから。

気持ちに踏ん切りがつくまでは好きでいようって思ってた。

こんなの…もう言葉ではっきりとフラれたようなもんじゃん…。

「ゆめ…」

かっちゃんが出ていったのと反対側の、教室の前のドアからゆうれいが入ってきた。

「ゆうれい…いつから?」

「…けっこう最初から」

「聞いてたの?」

「聞こえたんだよ」

「聞いてたんじゃん。いいよ、惨めだって笑ってくれて」

一番近くにあった机にゆうれいが乱暴に手を置いたから、ガタンって揺れて、
そんなことは気にも留めないで大きい歩幅で私の前まで来た。

私のネクタイをグッと引かれて、左手は後頭部に添えられる。

近い、って思った。

咄嗟に目をつむってしまった。

体格差はそんなにないのにゆうれいだってやっぱり男の子で、ちからには勝てない。

「結芽?」

ゆうれいの体がパッと私から離れた。
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