毒で苦い恋に、甘いフリをした。
お母さんの勢いに負けて部屋に上げてしまった。

壁掛け時計が秒針を刻む音が二人の間に鳴り続ける。
八時をちょっと過ぎたところだった。

こんな時間に会うのは初めてかもしれない。

お母さんが持ってきてくれたオレンジジュースにもクッキーにも、二人とも手をつけなかった。

数学のノートなんて借りてない。
そもそも今日は数学、無かったし。

「嘘つき」

「明日休みじゃん」

「はぁ?」

「約束してないし会えない可能性が高いじゃん」

「だからなに」

「今のうちに会っておこうって思って」

「嘘つくくらいなら明日会おうって言えばいいのに」

「今がよかったんだよ」

「だからなんでよ…」

私はベッドに座って、枕を膝に置いて手で握っていたんだけど、
ベッドの下に座っていたゆうれいが枕をどかして、私の両手を掴んだ。

「ゆめこそ、なんで嘘ついた?」

「嘘って?」

「教室で、ニカちゃんに。泣いた理由、なんで隠すの?」

真剣な眼差しで見据えられて、なんとなく気まずくて俯いた。
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